悩める僕らは素晴らしい

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夜明け告げるルーのうた 感想 湯浅監督は原作物のほうが良い?

【映画パンフレット】 夜明け告げるルーのうた 監督 湯浅政明

 

 もう数週間前になりますが、湯浅監督初のオリジナル映画作品、夜明け告げるルーのうたを見てきました。大分記憶が曖昧になっているところもありますが、せっかくなので感想をアップしたいと思います。

※ネタバレを含みます。

 

 

 

構成要素・テーマ等

  • 舞台となる街の名前は日無町。人魚が出るとされる島「人魚島」の位置関係によって、日無町は文字通り一日中日が当たらない街となっている。これは人魚という存在がこの街に影を落としている、主人公カイの閉じた感情などをを表しているのでは。物語終盤、人魚による災害からの救出劇やカイの感情の変化と連動するように人魚島の地形が変わり、日無町は日光が当たる街に変化する。
  • 好きなものを好きと言える事。HPや湯浅監督のインタビューなどでもはっきりと明言されているテーマ。主人公カイは都会に住んでいた中学生で、DTMで自分の音楽を作成することが趣味。思春期のサブカル少年である。テクノロジーが進化し、中学生でも簡単にDTMができるほど趣味が多様化した時代に、自分の本当に好きなものを正面から好きと言えるかいうのは、非常に現代的な設定である。
  • 主人公の名前はカイ(貝)。ものがたり冒頭、カイの祖父と父の会話の中で、朝食に出ている貝が開いていないところを見て、祖父は「無理開けるべき」父は「開くまで待ってみる」とそれぞれ話している。これは心を開かない主人公カイ(貝)に対するそれぞれのスタンスを表すものである。物語終盤、同様の朝食のシーンがあり、そこでは朝食の貝は開いている。これはカイの感情の変化を示すものであり、その直後カイは父に感謝の言葉をつげる。
  • 地元の人間の保守性・閉鎖性。小さな島の町が舞台ということもあり、地元の人間は非常に閉鎖的。そうした存在も、好きなものを好きと正直に言うことの足かせになっていると感じさせる内容。 

 

 

これらのテーマ設定は、下記のリンクからも見て取ることができます。

lunouta.com

natalie.mu

 

 

 

感想

  • 最初の離島での、主人公たちのバンド、セイレーンの演奏時にルーの歌が入るシーンまでは非常にテンポがよく、また盛り上がりも非常にある。
  •  主人公の葛藤があまり画かれていないように感じた。どの段階で主人公は好きなことを好きと言えるようにふっきれたのかがわかりにくい。
  •  さらに主人公の遊歩達に対しての接し方(上から目線や小馬鹿にした態度)の反省も特にないままに、関係性が修復されてしまうようにもみえる。
  •  後半はファンタジー要素が強すぎて、この作品のフィクションの境界線がどこにあるのかが不明確になってしまい、没入することができなかった。
  •  後半の内容を勢いがあってよしとするのか、逆に没入できないかで、この作品への評価が大きく別れるように感じた。
  •  細かいところでいくと、海や人魚・歌というテーマ設定から、セイレーンというバンド名も後々内容に食い込んでくるのかと思いきや、あまり深い意味がないことがわかるなど、いろんな要素を詰め込みすぎて投げっぱなしなっている項目が多いようにも感じた。※これは僕の読解力がないだけかもしれないが

 

 湯浅監督の作品は四畳半神話体系やピンポン等、非常に好きな作品ばかりですが、今回の作品はそれらの作品ほどのインパクトは正直感じませんでした。湯浅監督はオリジナルよりも、原作ものを映像化するほうが相性がよいのでは、という印象をうけました。とはいえ、オープニングからルーの登場シーンまでの盛り上がりは、ライムスター宇多丸師匠的に言えば5億点であり、それだけでも見る価値はあるのではと思います。