はじめに
先日、新宿バルト9のレイトショーにてシン・ゴジラを観てきました。評判通りの非常に面白い内容でした。
岡田斗司夫氏やライムスター宇多丸師匠等、通な方も軒並み高い評価をしています。しかし、僕の感想はそうした方とは少しベクトルが違います。もちろん物語としてのテーマ性や完成度の高さなど、上記の方の批評はとても面白く納得できるのですが、僕が最も面白く感じたのは、「日本の労働生産性の低さ」の原因を非常に鋭く描いているようにみえたところです。
【絶賛】宇多丸 映画「シン・ゴジラ」評価を語る 庵野秀明監督 シネマハスラー - YouTube
岡田斗司夫ゼミ8月7日号「シンゴジラのテーマを掘り下げる~ネタバレ御免の一問一答SP」 - YouTube
労働生産性とは?
ある一定期間に生み出された生産量と、生産に使用した労働や機械設備(資本)などの投入量の比率で、生産活動の効率性を示す指標です。生産性指標の代表選手としては、労働生産性がよく用いられます。労働生産性とは、労働者当たりの生産量、すなわち、下の式で示される比率で示されます。この指標が改善されれば、生産活動がより効率的に行われていると解釈できます。
労働生産性=生産量/労働投入
日本の労働生産性の低さ
日本の労働生産性はOECD諸国の中でも低い水準であるといわれています。下の図は28年度労働白書で示されているものです。
同白書内では労働生産性が上がらないのは、付加価値の上昇率が低いためであり、付加価値を上げるためには無形資産投資(受注・パッケージソフト、自社開発ソフトウェア等のIT化等)が必要とされています。
出典:平成28年度労働白書
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-2_01.pdf
シン・ゴジラでの労働生産性を示すシーン
シン・ゴジラでは前半と後半で、ゴジラ対策を行う組織をそれぞれ対照的に描いています。前半では大杉連を総理とした現内閣、後半では長谷川博己を中心とした対策チームです。前半の現内閣は労働生産性の低さの原因を表すようなものでした。以下はその代表的なものです。
前半
・既定路線での報告会議
会議での既定路線が誤っている可能性があっても、既定路線を優先させてしまう構造を感じさせるシーンが多くありました。
また「総理レクを入れる」という竹野内豊のセリフがありますが、これは報告・打合せの事を意味しています。この~レクという言葉は行政関係でよく使用されるものであり、シン・ゴジラがよく調べられていることを感じさせる物でした。
・紙ベースによる報告・情報共有
登場人物の多くが、キングジム製の大きなファイルを持ち歩いているシーンが目立ちます。会議で報告する際も、基本的に紙の資料が中心となっていました。意思決定を行う層がITリテラシーが低いことを示すものであり、非効率さの象徴になっています。こうしたことは、官僚組織や行政だけでなく、古い体質の企業であれば同様の光景ではないでしょうか。無形資産投資が進まない現状を見たような気がしました。
・ポーズとしての情報収集
空虚な有識者会議。状況の現状把握にかける比重が低いことにより、的外れな対策案を決定してしまいます。
後半
前半に対し、後半では上記の項目と対比的なシーンが描かれます。
・対策チームにはモバイルPC主体の環境が整備される。
労働生産性にかかわる無形資産投資は、ハードウェアの投資を除いていますが、IT環境全般を活用して効率化を図っている見方もできるのではないでしょうか。
・縦型組織ではなく、対策チームという横型組織を採用している。
高橋一生や市川実日子等の個性的な人物を中心に人選されていることが描かれています。
・そもそもの現状把握に力点を置いた。
ゴジラの動力源などへの着目はそれにあたると思います。
シン・ゴジラは怪獣物であるだけでなく、官僚物の物語でもあります。前半と後半で対比される組織の業務効率の違いに着目してみてみるのも面白いのではないでしょうか。
少なくとも、僕には「こういったシーンは自分の仕事上でも良くあるなぁ」というシーンばかりで、共感しっぱなしの状態でした。