ヴィンランド・サガ 17巻 感想考察 復讐と赦し
少し17巻が出てから時間が空いてしまいましたが、最近出たばかりの18巻を読んで、またヴィンサガ熱が高まったので、まずは17巻の考察の記事を上げることにしました。
前巻までの内容
前の巻で示されていたテーマを確認します。
- 15巻はグズリーズを中心とした、ルールと自由をテーマにした内容だった。
- 16巻中盤、カルリ(赤ん坊)を引き受けたところから、テーマは「復讐にどう向き合うか」に移り変わった。
- 16巻終盤、16巻内で取り上げられてきた3つの問題がトルフィンに突き付けられた。
- ①争いに直面したとき、剣をとらずにその場を収められるのか。
- ②復讐に代わる手立てはないのか
- ③自分が過去にしたことにどう折り合いをつけるのか。
- これらの問題に対し、トルフィンとヒルドの間にエイナルが入ることで解決に向かうのでは?
これらの内容を踏まえて、17巻の内容を考察します。
目次
17巻の内容
17巻は復讐と赦しがテーマといえます。それぞれ復讐心を強く持ったことがある(持っている)トルフィン・エイナル・ヒルドを中心に話が進む巻です。
狩るもの狩られるもの③
- ヒルドに弓を向けられ、熊の肉料理がこぼれるシーン。同じ食事をとっていた両者が対立することを象徴する一コマ
- ヒルドはカルリを見てトルフィンへの射撃を躊躇した。これは16巻で、カルリを受け入れることが復讐の連鎖を防ぐことを示していたからではないか。カルリをみて、ヒルドはトルフィンへの復讐を一瞬躊躇したのではないか。
- そこにエイナルが止めに入ることで一時的に危機が回避される。
- そこでヒルドは、先程の食事に毒を盛った事、解毒薬が欲しければ1:1の決闘をする事をトルフィンに告げる。
- ※しかし16巻でヒルド自身、毒は使わないことを話しており、これはハッタリであることがわかる。
狩るもの狩られるもの④
- トルフィンとヒルドが決闘を行う中、エイナルはヒルドが毒を使うような人間でないと信じて、仲裁に入ることを決意する。※前回のワタクシの予想通りの展開であるw
- エイナルは自身のケティルへの復讐心を思い返しながら仲裁に向かう。ヴィンランド・サガでは、復讐心にとらわれた人間は、相手を赦すことでしか前に進めないことが描かれてきた。
狩るもの狩られるもの⑤
- ヒルドの過去を振り返るエピソード
- ヒルドの村はアシェラッド一団からの襲撃を受ける。
- 父親と襲撃から逃げる道中、「この襲撃を恨んではいけない、赦すことだけが自分を救ってくれる」とヒルドは父親に諭される。
- ここでも、復讐心と赦す心をテーマにしている。
狩るもの狩られるもの⑥
- 過去のトルフィンによってヒルドの父は殺される。
- 父を殺された事実、それを止めることができなかった自分の弱さを赦すことができないヒルド
狩るもの狩られるもの⑦
- 家族を失ったヒルドを、山で熊猟を行う猟師が助けてくれる。
- 猟師は第二の父親として、ヒルドに猟を指導する。
- ヒルドの猟の腕も上達し、お互いの関係性も深まった中、猟師はヒルドに対し、ヒルドがまだ怒りに囚われていること、それを捨てるべきことを告げる。
- つまりヒルドは、2度にわたり父親から、怒りを捨て相手を赦すことを諭されることになる。
- その直後、猟師は不覚にも熊に殺されてしまう。熊にトルフィンを重ね、ヒルドは復讐心をあらわにする。
- ※16巻から、熊はトルフィンの比喩として機能してきた。
狩るもの狩られるもの⑧
- 舞台はトルフィンとの決闘のシーンに戻る。
- ヒルドは自身が努力と技術によって作り上げた連弩によってトルフィンを圧倒する。そこで、過去とは逆の立場、今度は自分が狩る側で、トルフィンがかられる側であることを宣言する。
狩るもの狩られるもの⑨
- 負傷しヒルドの前に跪くトルフィン。さらに、ヴァルハラの悪夢で登場した死者の亡霊がトルフィンを捕まえる。
- ヒルドからだけでなく、トルフィンは自分で自分のことを赦す事が出来ていないことが改めて示唆されてている。
- そこへグズリーズ、赤ん坊を連れたギョロも駆けつける。泣き出す赤ん坊に、ヒルドは強い苛立ちを見せる。
- これは、自分のあったかもしれない平穏な未来を思い起こさせるからか、それともカルリは復讐を止めるべきとする物語上の記号だからか。
- 怒りにかられて引き金を引くヒルド。しかし、矢は空に向かって放たれた。死んだ父親二人の霊が、ヒルドの連弩の向きを変えたからである。
- ここだけ見ると、死者の霊に事態を解決させるのはズルい気もするが、発射の瞬間エイナルがトルフィンをかばっている。父親二人の霊は、復讐心は、復讐の対象だけでなく、無関係の人間も傷つける事になるため、赦す心を持てと諭したともとらえられる。
- トルフィンは、ヴィンランドをつくることで贖罪をする時間を欲しいと伝え、ヒルドはヴィンランド実現まで赦すに値する人物かトルフィンを監視することになった。
17巻の感想
グズリーズを中心とした15,6巻の内容は、トルフィンの過去とは直接の関係はない登場人物を巡って、ヴィンランド建国がどのような解決策となるのかを示す内容だったように思います。
それに対し、17巻はトルフィンの過去と直接関係のあるヒルドとの内容で、その内容はより重く深いものでした。非常に面白かった反面、最後の解決策が、既に死んでしまった登場人物によるものというのは、少し内容として浅いような気もしました。
前回の記事で、①争いに直面したとき、剣をとらずにその場を収められるのか。②復讐に代わる手立てはないの。③自分が過去にしたことにどう折り合いをつけるのか。の3つの問題に直面したと書きましたが、17巻では、それらの問題への明確な答えは示されなかったように思います。
むしろ、それは今後の話の中で継続のテーマとなるような感じでしょうか。
ヒルドの赦しを得て、トルフィン自身も自分のことを赦せたとき、ヴァルハラの悪夢は終わるのでしょうか。
↓18巻の考察