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東京どこに住む?(速水健朗) 感想書評 商店街の実態

 

東京どこに住む? 住所格差と人生格差 (朝日新書)

 

 最近、速水健朗さんの著書、東京どこに住むを読みました。といっても、読み終わってから少し時間がたってしまったのでうろ覚えな部分もありますが、忘れないうちに感想を残すことにします。

   

 

 

本書解説動画リンク

 速水さんが各所で本書に関連する内容の事を話している動画や音声をまとめました。まだ本書を読んでいない方は、これらを確認することで、ある程度本書のテーマを理解することができると思います。

www.tfm.co.jp

www.youtube.com

文化系トークラジオ Life: 2016/02/28「ここに住みたい~これからの『住む場所』の選び方」 アーカイブ

 

本書の内容の簡単な要点確認

 ここからは、本書での内容を、ブログ管理人が恣意的にまとめます。

都市部の再定義 東京内格差

 東京一極集中といわれて久しいが、その東京の中ですら格差が生まれてきている。そうした中で、東京の都心部を本書では再定義している。それは下記のようなものである。

都心部=皇居を中心とした半径5km圏内

この圏内に入る地域はおおむね世帯の平均年収や、将来的な人口増加が見込まれている地域と合致するという。逆にここに入らなかった地域、23区でも皇居半径5kmから外れる板橋区や北区・足立区などは、人口減少が予測される地域であり、東京内でも地域間格差が生まれていることが指摘される。

 

近年の住みたい都市の特徴とは

 かつては東京の西側が閑静な住宅街として注目されていたが、現在ではその価値観がが変わってきている。

 近隣に商店街や~横丁等の地域に根付いた食文化のあるところ、また皇居近辺のビジネスエリアに近い場所が好まれる傾向にあるという

 人々は、住む場所・働く場所・消費する場所・食する場所・飲む場所がそれぞれ近くなり、混ざり合っている場所として東京を再定義している。

 こうした視点で見ていくと、最近の住みたい街調査で「麻布十番」ランキングを上げ、3位にランクインしたことは、その象徴的な結果であるという。

 

新たな都市の指標

 また、ホームズ総研では、都市の新たな指標としてセンシュアス度という独自の尺度を定めている。本書でもこの指標は参考にされている。その基準は下記のようなものである。

  1. 「共同体に帰属している」=ボランティアへの参加度やなじみの店の有無な
  2. 「匿名性がある」=1人だけの時間を楽しんだり、昼間から酒を飲んだ経験など
  3. 「ロマンスがある」=デートやナンパの機会、路上キスの経験など
  4. 「機会がある」=知人ネットワークから仕事につながった経験など
  5. 「食文化が豊か」=地ビール、地元食材を使った店の有無
  6. 「街を感じる」=街の風景を眺めたり、喧騒を心地よく感じた経験
  7. 「自然を感じる」=公園や水辺、空気などに触れて心地よく感じた経験
  8. 「歩ける」=通りで遊ぶ子どもたちの声を聞いた経験や寄り道の誘惑の有無

※↓センシュアス度の高い都市のランキング

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http://www.homes.co.jp/search/assets/doc/default/edit/souken/PDF2015/sensuous_city_all.pdf

 

なぜかつては東京の西へと郊外化が進んだのか

 再び都心部に住むことが注目される中、かつてはなぜ郊外に住むことがよしとされたのか。それは下記のような法律や政策による人為的な誘導があったからとされている。

 

  • 工場制限法
  • 工場再配置促進法
  • 高層住宅誘導地区
  • 大規模小売店舗法
  • 土地保有税の上昇
  • 地元に多くの予算を持ち帰ることが表につながる政治原理

 

 これらの法律は、戦後日本が方針としてきた、「地域格差の是正」というテーマに基づくものといえる。※本書では大規模小売店舗法には触れられていなかったが、同法も当然郊外化を推し進めた法律の一つといえるだろう。

 こうした意図的な政策要因により、都市部への集中は意図的に拡散され、郊外化とは作り出されてきたとされる。

 

自然に任せれば都市化は進むもの 都市化のインセンティブとは

 本書で指摘されていた都市部に住むメリットの代表的なもの

  • 経済学者のロバートルーカスによれば、人は都市部に住むことで学びあい、頭がよくなり、平均年収も増加するとの主張を行っている。
  • 都市部の外部不経済(デメリット)である交通渋滞は、まだ残るものの、以前に比べれば解消されており、その影響は限定的
  • ヤフーは2013年に在宅勤務を禁止した。知識集約型の業界では、業務の遠隔化は難しく、アメリカの先進的な企業がサンフランシスコへ集中し始めていることも、その表れだという。
  • 住む場所は、子供の進学する学校の学区にも関わっており、これも住む場所の重要なアドバンテージとなっている。

 ここまで上げてきた要因より、本来自然に任せれば都市化とは進んでいくものであり、それが近年進んでいるのは、法律の規制緩和等によるもの、というのが本書の大まかな主張でしょうか。

 

 

感想

全体を通して

 テーマとしては非常に興味を惹かれ読み始めてたところではありましたが、最後の都市に住むことの要因に関しては、もう少し根拠のはっきりした項目がほしいところでした。数値化した根拠はまだあまりないのかもしれませんが、感覚的には確かに都市部に住むことのほうが投資的な価値があるように個人的には感じているので、もう少しそのあたりがはっきりすると非常に面白かったなと思います。

商店街の実態

 現在の魅力的な都市の条件の中に「近隣に商店街があること」という項目がありましたが、商店街という組織ベースでみてみると、一貫して衰退化の一途をたどっているのが現状です。それは、東京都に限ってみても同様です。下記の図はそれを表しています。

 本の中、というよりホームズ総研の中では商店街の中に若い世代による店舗等多様性があることが条件とされていましたが、新たに商店街に出店する店舗は商店街組織に属さないことも多く、商店街組織の存続には課題となっています。

 商店街組織には現在の経済に適応できてない物も多く、その存在はどこまで地域社会に必要なのかは私個人としては非常に疑問に思う部分もあります。

 今回の魅力的な都市の条件となったのは、「歴史ある良い店舗の集積」だったのか「商店街」だったのかは、切り分けて考える必要があるのかもしれません。

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東京都商店街実態調査(平成25年度)

http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/pdf/monthly/chusho/shotengaijitaichosaH25.pdf

 

持ち家問題 移動可能性は資本

 本書の内容とは少しそれますが、都市間や住居を自由に移動できるかどうかという問題は、今後非常に重視される点だと感じています。

 薄れたとはいえ、まだ多くの人には持ち家願望というものが根強くありますが、持ち家を購入するというのは(分譲マンションであっても)都市間移動を制限する要素であり、非常にリスクの高い行為だと思います。理由は下記の二つです。

  1. 経済のライフサイクルが短くなったことから、土地エリアの価値や、自身の収入状況が変動しやすい状況になっている
  2. 子供の育児環境、親の介護環境は今後厳しさを増すことが予想される中で、住環境はそれらの問題に合わせて全く異なるものとなる。一度家を購入するのはそれらに対応しずらくなるというリスクを抱えている。

 1に関してはローンを組んで家を購入することが前提ですが、長いローンであればあるほどリスクが高いでしょう。その間会社の経営が傾くことや、自身が病気等によりフルタイム労働できなくなる可能性はいくらでもあります。また、土地の担保価値も今後10年20年と維持し続けられる可能性はどれだけあるのでしょうか。

 2に関しては、最近自身も実感しているところです。私は最近父親が要介護の状態になりました。その際、自宅の構造に改装が必要となりました。幸い、それほど大きな改修にはなりませんでしたが、最初に家を購入する人の中でどれだけの人がバリアフリーの有無を重視するでしょうか。

 自身だけでなく、家族も含めた際、適切な住環境というのは全く異なります。それらの変化にすべて住居の改修で対応するのは非常にコストのかかることです。

 これらの事から、自分の人生のライフステージに合わせて都市や住居を変えていけることは、今後非常に重要な要素になると思います。

 

地方創世の本音は?

 また、地方創世に対する懐疑的な内容も本書には触れられていましたが、僕もこれには全く同感です。商店街の課題と同様に、今後は地域間でも選択と集中による合理化を行わざるを得ないでしょう。そうしなければ財政コストがたちゆかないのは明らかです。

 それでもなぜすべての地方に一定の財源が設定され、一大地方創世祭りが行われているのか。それは、この財源で最後のあきらめをつけてもらうためではないかと僕は考えています。

 可能性が低くても、自分の生まれ育った場所が本当に今後必要性がなくなるのか、やれることをやってみなければわからない、やる前からなぜこの地域に将来性がないといえるのか。こうした感情を持つ人は多いでしょう。

 そうした人たちが納得するためのプロセスとして、この地方創世とはあるように僕は思います。僕自身地方出身ですが、自分の地域が今後なくなるかどうかということに関してはあまり抵抗はありません。むしろ地方の実情がわかるからこそ、今後の財政状況では、立ち行かなくなるエリアが出ることには納得できるです。

 

最後に

 何か本書の内容とはずれる項目もありましたが、総じて今回も速水さんの視点はとても面白い内容の物でした。あまり根拠をもって着目されていなかった分野を、しっかりと検証を行って明らかにするというのは、いつも参考にさせてもらっています。

 次回はどのような内容を書かれるのかにも注目してきたいです。