悩める僕らは素晴らしい

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逃げられない過去 ヴィンランド・サガ18巻 感想考察

 

 

 先日、ヴィンランド・サガの18巻が発売されました。ヴィンランド探索編に入ってからというもの、一巻の中でテンポよく伏線が貼られ回収されていくので非常に読んでいて面白いです。今回も前回に続き全体のテーマや各話の内容等を考察します。

※ネタバレ的な内容が多くあるので、まだ読んでいない方見ない方が良いかもしれません。

 

目次

 

前巻17巻の内容

loki16185.hatenablog.com

 

18巻全体のテーマ

 17巻はトルフィンにとって過去の被害者ヒルドとの関係がテーマでした。18巻はトルフィンにとって過去の加害者であるフローキ(ヨーム戦士団)との関係がテーマになります。いずれにしても、ヴィンランド建国という新たな目標に向かって進むためには、トルフィン自身の過去の問題から逃げることはできないということでしょう。ヴィンランド探索篇では、新たに登場する人物は皆、ヴィンランド建国とトルフィンの過去を中心にして其々きれいに立場が違う登場人物が出てくる為、登場人物の情景描写だけでなく、このヴィンランド・サガという作品が何を伝えたいのかを非常にわかりやすくしてくれます。

 

借り物の命

  • ヒルドに殺される夢で目覚めるトルフィン
  • その際、ヴァルハラの死者も夢に登場していた。まだトルフィンが過去にしてきた罪に対して、答えが出ていないことが示唆される。
  • トルフィンの負傷により春までベルゲンで足止め。※ここで春までに物語の時間を留める必要はあったかは少し疑問
  • 借り物の命は、ヒルドに対してだけでなく、アルネイズからも借り物でもあることがエイナルから改めて指摘される。エイナル・トルフィン共に、もはや自分だけの命ではない。

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ノルウェー出立

  • 最初に子連れの熊が描かれる。 これは、熊の比喩であるトルフィンも平静を取り戻したということだろうか?
  • 赤ん坊のカルリを、トルフィンが治療していた家に預けようとするが、最終的に連れて行くことになる。やはり今後も復讐を防ぐという記号として機能するのだろうか。

 

バルト海戦役①

  • トルケルが退屈しのぎに熊を倒すシーンからのスタート。ヴィンランド探索篇に入ってからのトルケルは完全にギャグキャラのポジションになったw
  • ただ一見ギャグシーンに見えるところだが、これまで熊はトルフィンの比喩として度々使われてきた。これは今後トルケルがトルフィンの障害になるということを示唆しているのか?
  • そんな中、フローキがトルケルのもとを訪れる。またしてもよからぬ企みがあることが示唆される。
  • 一方シグルドはグズリーズを取り戻すという見栄のために奮闘した結果、海賊に襲われ奴隷となってしまった。やはりヴィンサガでは見栄や誇りのために行動しても良い結果にはならないようである。
  • 奴隷市でシグルドを見つけたグズリーズがトルフィンを大声で呼んだことによって、そこに偶然居合わせたトルケル一団の数名に見つかってしまう。

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バルト海戦役②

  • トルケル一団に対し、無用な争いに巻き込まれることを避けようと人違いを装うトルフィンだったが、最終的には隠し通すことができず、トルケルに会いに行くことになる。
  • これを見たエイナルは、過去を消すことはできないものだと、思わず発言する。過去にしたことは、被害者・加害者ともに簡単に消すことはできないということだろうか。

 

  • トルケルと再開するトルフィン、以前のトルフィンと違い、瞳がトールズに似てきたと指摘される。トルフィンが本当の戦士になりつつあると。また、トルケルを訪ねていたフローキにも出くわす。フローキはトルフィンがトールズの子供であると紹介され驚愕する。
  • 解決していない過去の問題は、トルフィンにとっての被害者だけでなく、トルフィンにとっての加害者の問題も実はあった。トルフィンは気づいていないが、トールズを殺したのはアシェラッドではなく、実質フローキによるものである。
  • 2巻で、トールズ暗殺はフローキの独断であったことが示唆されている。

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※このころとはだいぶ画風が変わったw

 

バルト海戦役③

  • トールズのヨーム戦士団離反の回想シーン。以前からフローキがトールズに対して悪感情があったことが描かれる
  • その後、舞台は現代へ。トルケル・フローキ両者と関わることを極力避けようとしたトルフィンだったが、トルケルの悪戯心によって、トルフィンはフローキがトルケルの基を訪れた理由を聞くことになる。以下フローキの話の内容
  1. 最近ヨーム戦士団の首領が後継者を指名しないまま急死したこと。
  2. 後期者を巡り戦士団は2つの派閥に別れたこと。
  3. 一つはヴァグンという野心の強いたたき上げの戦士団幹部による派閥。
  4. もう一つは当然フローキ。正確にはフローキの孫を後継者にしようとする派閥。※孫の名前はバルドル。北欧神話の神の名前である。この事には最後にもう一度触れる。
  • フローキからの説明が終わると、またしてもトルケルは悪戯心により、トルフィンはトールズの子供であり、次期ヨーム戦士団首領に最も近い存在だと煽り立てる。
  • トルフィンは争いを避けるため、自分は首領に一切興味がないことを告げ、その場を後にする。当然フローキはその言葉には納得せず、密かにトルフィンに向けて刺客を送る。
  • 結果として、バルト海戦役①で示唆されたように、トルケルの悪戯によって、トルフィンはフローキからの暗殺に対処しなければならなくなった。

 

バルト海戦役④

  • 早々に船で出港するも、すぐにフローキの追ってが現れる。全員で逃げ切ることは不可能と判断し、トルフィンと監視を続けるヒルドだけが別行動をすることに。
  • ひとりで問題を抱え込むトルフィンを見て、苛立ちを見せるグズリーズ。グズリーズがトルフィンに好意を持っていることが示唆される。
  • ヴィンサガにおける初の恋愛要素シーンw。最近何かグズリーズを可愛く描くようになったと思ったらw
  • フローキの刺客はただトルフィンを追うだけでなく、近隣の家々も破壊することで効率的にトルフィンを追い込もうとする。やむを得ず、破壊行為を止めるため刺客の前に姿を現すトルフィン

 

バルト海戦役⑤

  • フローキからの刺客に対し、トルフィンは素手で立ち向かう。これまで非暴力を貫いてきた割には、あっけなく暴力を選んだ展開。これは、エイナルがトルフィンの非暴力の努力を知っていると話したからだろうか?現実的にそれしか手段はないだろうと思うが、これまでのテーマ的に、あまりにもあっけなく暴力を選んだなと感じた。
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  • 複数のヨーム戦士に対し、素手で対処し、致命傷を避けながら無力化を図る。※ただ、目をつぶしたり、骨折させたり、農場編から考えると十分な暴力なように思うが
  • 過半数の戦士を倒したところで、ヴァグン派閥の戦士による造反が起こる。ヴァグン派閥の戦士はトルフィンが次期首領にふさわしく、協力してほしいと頼みでる。苛立ちと共にその頼みを断るトルフィン
  • そんな中、襲われていた村人の子供が、トルフィンに助けてくれた礼に首飾りを渡そうととする。しかし、一連の戦いを見ていた子供の親は、トルフィンに怯えながらその子供の行為をやめさせる。他人にはまだトルフィンが戦士に見えているという象徴的なシーンであり、このヨーム戦士団の跡目を巡る争いから逃げることができないことが示唆される。
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今後の展開

 フローキの孫の名前はバルドル。このバルドルという名前は、北欧神話の神の名前でもあります。以下wikiより

バルドル(古ノルド語: Baldr、Baldur、英語: Balder)は北欧神話の光の神である。
後述の『スノッリのエッダ』では、最も賢明で、美しく光り輝く美貌と白いまつ毛を持ち、雄弁で優しいとされ、やや優柔不断な面もあったが彼の裁きは不変であるといわれる。
両親はオージン(オーディン)とフリッグ、妻はネプの娘ナンナで、彼女との間に息子フォルセティがいる。ブレイザブリク(ブレイダブリク、ブレイザブクリク)という館に住みフリングホルニという船を所有している。
両『エッダ』においては、ロキの奸計により異母弟ヘズにより殺されるが、ラグナロクで世界が滅びた後に現れる新世界に甦り、ヘズと共に暮らすとされている。罪なくして一度死んだ後に復活するという神話は、キリスト教の伝播に伴ってその影響を受けたものとも考えられている[5]。山室静によれば、バルドルはサガなどでは戦士とみなされており、彼が神として崇拝されていた形跡はないという。

 

デンマーク人の事績』

ナンナをめぐってホテルスと戦うバルデルス。Johannes Wiedeweltによる(1775年)。
サクソ・グラマティクスが著した歴史書『デンマーク人の事績』において、バルドルはオーティヌス(オーディン)の息子である半神の戦士・バルデルス[13](またはバルデル[14])として登場し、性格も勇猛に描かれている。その肉体はどんな武器も貫けないが、森に住む神サチュルンであるミミングが持つ剣ならば傷つけることができるとされる。バルデルスはまた、3匹の蛇の毒を混ぜた特殊な食料を食べて力を得ている。ホテルス(ヘズ)の乳兄妹のナンナをめぐってホテルスと争い、オーティヌスやトールの助力の甲斐なくホテルスとの海戦で敗れる。その後も幾度かの対決でバルデルスが優位に立つが、ナンナがホテルスと結婚すると、彼女の幻影に悩まされて病気になり、歩行ができなくなり馬車で移動するようになる。ホテルスにスウェーデンデンマークを支配されたため、デンマークを回復すべく双方の軍勢をぶつけ合う。そのさなか、洞窟に住む3人の乙女たちから勝利の帯を与えられたホテルスによって剣で脇腹を刺される。自分の死を覚悟しつつバルデルはホテルスとの争いを続けたが、傷の痛みが増して3日後に落命する。死体はデンマーク人によって大きな塚に葬られる[15]。

 バルドルとは、北欧神話デンマーク人の実績ともに、道半ばで死んでしまう存在とされています。ということは恐らくヨーム戦士団を巡る争いの中でも道半ばで死んでしまうのではないでしょうか。そうなればフローキの思惑も達成されないことになります。

 そうした中で、トルフィンはフローキが父親殺しの首謀者であるという事実とどう向き合うことになるのかという点も気になります。トルフィンが自分の過去と向き合うえで、この問題を明らかにしないということは物語上ないと思います。今度はトルフィンは加害者ではなく、被害者の立場です。逆に自分がどう復讐心を抑え、暴力を抑えるかがテーマになるのかもしれません。父殺しの事実と向き合った時、トルフィンはまだ戦士なのか、それとも本当に旅の商人なのかが明らかになるのではないでしょうか。
 また、そこにヒルドも居合わせることで、復讐と赦すというテーマは完結するのかもしれません。