悩める僕らは素晴らしい

音楽、サブカル、ラジオ等について、経営的・定量的な視点から書いていきます。

現代のバンドは中小企業である

 

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はじめに
 前回の「すべてのJ-POPはパクリである」の感想を書いた際に、現代のバンドは売れるためのマーケティング、差別化、ポジショニングが必要になっていると書きました。

 

すべてのJ-POPはパクリである 感想書評 マキタスポーツに脱帽! - No Longer Human

 

 そこの内容をもう少し掘り下げ、今回は現代のバンドは中小企業であるというテーマでブログを書くことにします。この突飛なテーマを思いついたきっかけは、JPOPパクリ本で現代でCDを売るにはマニア向けだというところからです。マニア向けがなぜ中小企業へつながるのか、そこを説明するにはまず企業戦略について書く必要があります。

 

競争地位別戦略

競争地位戦略とは、1980年にフィリップ・コトラー(Philip Kotler)が提唱した競争戦略の理論で、量的経営資源と質的経営資源から企業を4つに類型化し、業界内でのポジションに応じて企業が取るべき戦略目標を提示したもの。

リーダー(Leader)
 リーダーは、業界内のマーケットシェアトップの企業で、業界を牽引する主導的立場にある企業のこと。 潤沢な資本、優れた製品開発力、強力な流通体系によって業界の他社を凌駕する。
 リーダーの取るべき戦略は、市場全体の規模を拡大させることにある。市場シェアが最も高いリーダーは、市場規模拡大の恩恵を最も大きく受けるため、市場が拡大すればするほど高い利益を得ることができる。
 よって、トップシェアを維持することと、市場全体をカバーするフルライン戦略によって周辺需要を拡大させることが戦略目標となる。

チャレンジャー(Challenger)
 チャレンジャーは、業界上位のシェアを持ちながらもトップシェアでは無い企業。
 チャレンジャーの戦略は、何よりも業界内におけるシェア拡大、トップシェアの獲得を目指すことにある。
 シェアを拡大する方法として、リーダーがまだ強化していないエリアや製品分野に注力してリーダーのシェアを奪う戦略と、自社よりもシェアの小さい企業を攻撃して業界内のシェアを拡大する方法がある。
 リーダーとの競争では、量的な真っ向勝負ではなかなか勝てない為、製品や流通体系などをリーダーと差別化させることによってマーケットにアピールすることが重要である。

ニッチャー(Nicher)
 ニッチャーは、業界全体のシェアは小さいものの、独自の技術、ブランド、仕組み等を獲得することによって、特定市場におけるシェアを獲得している企業。
 特殊な技術や製品、価格帯、販売チャネルを活用することで、大企業との競争を回避し、特定市場のニーズに適した製品を提供する。
 ニッチャーの戦略は、リーダーやチャレンジャーが参入してこない、すきま(ニッチ)セグメントを発見または創造し、そこに経営資源を集中することで、専門性や独自性を高めて参入障壁を形成し、特定市場の独占的地位を維持していくことである。

フォロワー(Follower)
 フォロワーは、チャレンジャーのようにトップシェアを狙う位置にもなく、ニッチャーのように特定市場での際立った独自性も有していない企業。
 独自に多大な投資をすることが難しいため、上位企業の模倣によってプロセスをできる限り効率化することを目指す。上位企業からの報復を招かない様に事業展開し、市場で生き残るための利潤を確保することが目標となる。

競争地位戦略 - マーケティングWiki ~マーケティング用語集~ から引用

 前回も書いたように、ニッチャーが中小企業がとるべき戦略とされています。そしてリーダーは業界のトップ大手企業です。

 これを音楽・バンドに当てはめるなら、リーダーは既存のメジャーバンドです。いまだにメジャーバンドはその知名度と流通体制により、桜舞い散る歌をつくればある程度の収益を確保することができます。

 しかし、これから新たに市場に入るバンドはこのリーダーに対して何らかの差別化が必要になります。そこで中小企業がとるべきニッチ戦略が必要になるわけです。 これが、僕が「現代」のバンドは中小企業であると連想したキッカケです。

 その他にも中小企業に通ずる部分を列挙していきます。

 

 

・自分でマーケティングを行う必要がある
今まではバンドはどこかのレーベルに所属することで、このマーケティングを代行してもらうことができました。
 しかし、今では市場全体のパイの縮小により、今まで以上にバンド自身でマーケティングを行い、自分たちの個性の主張、差別化を図っていく必要が出てきています。 
 ターゲットはどこのジャンルの市場なのか、それともジャンルを超えたターゲットを見出すのか、先鋭化させるべき自分たちの武器は何か、今いるファンは何に魅力を感じてくれているのか、常に考えなければなりません。



 

・ファンコミュニティを自分たちで管理
 同様に、バンドはファンとのコミュニティも自分たちで管理しなければいけません。かつてグレイトフルデッドはネットも発達していない時期から、バンド自身でのファンとのコミュニティづくりを積極的に行っていました。
 ビジネスの世界に当てはめて考えれば、それは顧客管理CRMをしっかりと実践できていたといえます。

 マーケティング同様、このCRMもバンド自身が行うことが非常に重要になってきています。バンド自身が行うことで、一部の熱狂的なファン、忠誠度の高い顧客を生み出すことができます。それはニッチ戦略の一部のマニアから太く収益をあげるという方向性につながります。
 これは近年話題の「会いに行けるアイドル」「会いに行けるレスラー」などと同じ構図です。
 こうしたCRMを行う際、IT、SNSの活用は必須といえるでしょう。

 

・企業ドメインの不一致は解散の引き金

企業ドメインとは - 広告用語 Weblio辞書

 企業ドメイン、つまりメンバー間の目指すゴールがはっきりしていないと内部分裂にに繋がってしまう。
 バンドの解散の理由で真っ先に思いつくものは「音楽性の違い」という非常にふんわりした理由です。僕はこの「音楽性の違い」というのは

①「サウンドの趣向の違い」

②「バンド活動としての方向性違い」

の2つが含まれていると考えています。
 ①に関しては趣味趣向の問題なので、今回のブログテーマとはあまり関連が有りませんが、②に関しては、メンバー全員の目指すべき方向を確認、統一するということで対策が打てます。

組織論、企業ドメイン、経営理念の浸透。
これらを明確にしておかなければ、従業員満足度を高めることはできません。逆に内部分裂を引き起こす可能性すらあります。小さい企業ほど、目指すべき方向性を確認しておかなければ、すぐにそれは曖昧になってしまいます。

 バンドにおいてもそれは同様です。自分たちはどういったスタンスでバンド活動を行うのか。知名度を上げることが第一なのか。音楽に対するリテラシーの高い層に認めてもらうことが重要なのか。活動しているという事自体が重要なのか。

 こういった事は、バンドメンバーお互いが確認せずに(確認したとしても明確に共有できずに)活動を続けている場合が多いのではないでしょうか。

 

 

 その他ここからは、ここまでの文章の補足的内容を書きます。

 

・マーケティングの限界論に対して
 マーケティングをすることは、客のファンの要望をかなえるだけになり、イノベーションを生むことができない、最終的にはじり貧にしかならないという意見がよく見受けられます。
 しかし僕は、それはマーケティングをある一定程度実践した先に初めて意味を持つ意見だと思っています。多くのバンド、中小企業はそもそもマーケティングを行っていないところがほとんどです。
 プロセスの順番として、まずはマーケティングをしっかりと行い、客目線、ファン目線をしっかりととらえたうえで、そのマーケティングの基本をあえて外すという取組が意味を持つのではないでしょうか。

 書道では技術の高い人が、字を崩して書くことがあります。しかし、書道の初心者が字を崩しても決して乙な字になることはありません。ただグズグズのだらしない字になるだけです。
 基本を「崩す」という行為は、しっかりとした基礎技術があって初めて成り立つことではないでしょうか。


・反商業主義に対して
 音楽では、売れ線に走ることを否定する論調が良く見受けられますが、僕は聞き手を意識した活動は非常に重要だと思います。基本的に聞き手がCDを購入して、ライブに足を運ぶことで、音楽市場は成り立っています。
 それを意識しない音楽活動がしたいのであれば、アマチュアとして活動すれば良いはずです。今ほど、アマチュアとして音楽の自己表現ができる時代はありません。

 

 

まとめ

少々乱暴に中小企業とバンドを繋げてきましたが、小規模事業主、市場後発者という点で、両者には共通することが多くあります。今後は音楽に限らず、コンテンツに関わる人は少なからず中小企業化していく必要性に迫られるのでは、と思います。