悩める僕らは素晴らしい

音楽、サブカル、ラジオ等について、経営的・定量的な視点から書いていきます。

検証!本当にピザは原価率が低いのか!?東京ポッド許可局「ピザが高い論」

 

 

 

f:id:loki16185:20160828161817j:plain

ピザが高い論

 先日、ワタクシが好き過ぎるラジオ番組、東京ポッド許可局にて「ピザが高い論」というエピソードがTBSラジオにて放送されました。

 居酒屋のメニューだけでなく、ついには宅配ピザの金額にまで激怒したマキタ局員。保守論客としての乱暴な主張を展開しつつも、宅配・ケータリング業界の収益構造や競合関係を鋭く見抜いた許可局らしい論でした。

 僕は普段中小企業を支援する仕事をしている関係上、今回の話は個人的に非常に興味をひくところがあり、マキタスポーツ氏が提唱した、宅配ピザの低原価率(高利益率)の真相を調査してみたいと思います。

 

原価率の検証

大手チェーン店の決算書の分析

 大手企業であれば、自社の決算情報は自社HPに掲載しているものです。宅配ピザ大手企業はピザーラピザハット・ドミノピザの3社が中心とされています。ピザ―ラを展開する(株)フォーシーズはピザ以外の飲食事業も展開しているため、今回は宅配ピザのみを展開していると思われるドミノ・ピザの決算書を参考にします。

f:id:loki16185:20160828151729j:plain

http://www.dominos.jp/corporate/pdf/kessankoukoku2015.pdf

 

 上記決算書より、ドミノ・ピザの主要な経営指標を計算してみます。

  • 売上高総利益率 =ドミノ66.08%:料理そばすし61.69%:料亭居酒屋67.15%
  • 売上高営業利益率=ドミノ5.47%:料理そばすし1.33%:料亭居酒屋1.47%
  • 売上高経常利益率=ドミノ5.45%:料理そばすし1.50%:料亭居酒屋1.99%

 売上高営業利益率とは本業で稼いだ利益の事を指している為、ピザの宅配や人件費などを加味して考えるのなら、この指標を比較すればいいことになります。

 ドミノ・ピザ売上高営業利益率はというと、5.47%と他の飲食・外食関連の指標よりも大きく上回っていることが分かります。これはドミノ・ピザ単体での傾向の可能性もありますが、マキタ局員の指摘する通り、確かに宅配ピザ業界は高利益率なのかもしれません。

 純粋なピザの製造原価を見たければ売上高総利益率をみればわかるのですが、ドミノ・ピザの損益計算書では売上原価、販売費及び一般管理費のどちらに宅配の諸経費(配達員給与・バイクリース代・ガソリン代等)が入っているのかわからない為、今回は売上高営業利益率のみを比較しました。

 推測になってしまいますが、もし売上高総利益がピザ製造にかかるコストを中心に算出されているとしたら、ドミノ・ピザの売上高総利益率66.08%というのは、他の飲食系業界の原価率に比べて、平均の範囲内ということになります。つまり、一見非常に低そうに見えたピザの原価率は、実は飲食業界の平均値であったということになるのです。 

f:id:loki16185:20160828153427j:plain

https://www.tdb.co.jp/lineup/publish/tdbrep2015-II/pdf/U1.pdf

kotobank.jp

kotobank.jp

 

高く感じる原因=食材のみの原価

bmfc.b-mall.ne.jp

  こちらのリンクでは、宅配ピザ業界も含まれるであろう宅配・ケータリング業界でのコスト構造に関してコンサルタントが解説しています。以下一部引用

実際儲かるケータリングの管理会社さんが、どういったPL(Profit and Loss statement / 損益計算書)の構造をもたれているのかと言うと、売上を100とすると、まず、食材が27%と、包財が8%の、計35%が食材原価で、これが一番大きなコストです。次に人件費が大体20%。ひとりあたりの1時間あたり生産性が1万円ぐらいの生産性をつくることができるので、人件費を20%ぐらいに抑えることができます。そして、物流コスト。宅配をやる上で、物流のことをあまり考えられない方も多いのですが、物流比率は基本的に売価の10%未満に抑えるようにした方が良いでしょう。

たとえば、バイトさんの時給が800円なのであれば、仮に配達時間が片道30分で往復1時間=800円のコストがかかってくると。そこにガソリン代等々を加算すると、800円から900円ぐらいになってくる。それを10%未満にしようと思うと、「最低配送金額1万円以上」のように、最低配送金額を決めた上での物流の仕組みを作っていくということが大事になります。

あとは販促が5%、その他が5%ぐらいかかってきます。なので、売上を100%とすると、食材が35%、人件費が20%、物流が10%、販促が5%、その他諸経費が5%のトータル75%を差し引いた25%は残るように経営していけば、そもそも儲かるビジネスモデルですので、きちんとしたパッケージがあるフランチャイズに加盟したとして、その25%からロイヤルフィーを払ったとしても、十分な利益が出るということになります。

  この食材原価35%をマキタ局員はイメージし、「コストコッ!コストコッ!」と連呼していたものと思われます。食材原価から推測すると、宅配ピザ業界は暴利を貪っていることになりますが、実際にはそのほかの諸経費も存在する為、そこまでのレベルではありません。ただし、引用元コラムでも書かれている通り、他業界に比べて利益率・成長率の良い業界だったようです。

 

 近年競争が進みつつある宅配ピザ業界の今後

globis.jp

  許可局内でも、宅配でないピザの安売りについて言及がありました。これら安売りのピザをワンコインピザと称し、宅配ピザの脅威となっていることが、上記リンクで触れられています。

 こうした点で、マキタ局員が提唱する、宅配ピザ業界でのこれまでのイノベーションのジレンマ、企業努力不足というのは的を得ているのかもしれません。

 上記リンク内でも、極端な値下げはしないまでも、利用しやすさを促進させる程度の値下げは必要ではないかと書かれていました。そこにきてマキタ局員の1000円値下げ論。またしてもマキタ局員の慧眼は光りました。

 しかし、併せてタツオ局員・鹿島局員が指摘した、宅配ピザの「プレイスレス感」というのも非常に重要な要素だと思います。上記リンクではマーケティングの4Pの切り口から

Productとしては、価格低減を考えると凝ったオリジナルメニューを開発することに注力するより、ベーシックな日常利用できるラインナップに勤め

 と、指摘していますが、それではこれまで宅配ピザの持っていた「ハレの日の食べ物」ポジションを失ってしまうリスクがあるのではないでしょうか。タツオ局員が言うように、宅配ピザの競合相手は出前寿司なのです。一度上記のような価格競争に足を踏み入れれば、終わりのないコスト削減のループに引きずり込まれることになるかもしれません。そうしたら、二度と出前寿司を頼む消費者は振り向かないでしょう。

 

結論

 今回、宅配ピザの原価を調査した結果だけ言えば、「そこまで宅配ピザのトータル原価は低くない」ということになるのかもしれません。

 しかし、おじさんたちの戯れに思えた「ピザが高い論」は、マーケティングの4Pの概念に基づいた、宅配ピザ業界へ向けた、高付加価値路線と低価格路線という方向性の光と影を論じていた示唆深い回だったのではないでしょうか。

 サブカル的視点だけでなく、経営の観点からも楽しめる、様々な観点から楽しめるのが、許可局路線なのかもしれません。